旅チャイナ・楼蘭倶楽部
<クルック・ターグ山脈>
閉じる

 トルファン盆地とロプの沙漠の間に横たわる山脈。ターグは山脈の意。
 ヘディンもスタインも橘瑞超も、この山を越え、楼蘭に入っているのである。
 クルック・ターグのロプ砂漠側、すなわち南麓にアルトミシュ・ブラクというところがある。そこに泉が湧いている。アルトミシュ・ブラクの意味は六十の泉、ということだという。
 金子民雄氏によると、ヘディンもスタインも橘瑞超もここで飲料水を確保し、楼蘭へ向かったという。(『西域 探険の時代』岩波新書)
 あるいは、もっと積極的に言えば、当時、ロプの砂漠を探険するときはどの探検家も北から南へ向かうコースを取ったのは、このアルトミシュ・ブラクがロプの北に在ったからと言うことになるのかも知れぬ。

 当時、探検家は誰でも冬に旅行をしている。それ以外の季節にはやっていない。ひとつには、冬は風が最も少ない時期であること。タクラマカンで吹く砂嵐をカラ・ブランという。夏に多く吹く。カラは黒い。ブランは暴風。原住民をも畏れさせる。ひとたびこれに出遭うと、テントは倒れる、人も動物も砂に埋められる。
 もうひとつには、砂漠の旅行は水の確保が生命線であるが、冬であれば氷塊にして運べる。逆に言うと、冬しか二十日分三十日分の水を運べる時期がない。そういうことである。

 もうひとつ。橘瑞超の記録を読むと、夏に沙漠を旅行できない理由として次のようなことが書かれている。
 沙漠の旅に、絶対に欠かせないのはラクダである。ラクダは、二週間近くも飲まず食わずで歩ける。ところが、夏は、厚い毛が抜け替わる時期で力が弱くなり冬のようには働けない。これが自分は冬に旅行をするのだ、と。
 なるほど。知らぬところには、知らぬいろいろなことがあるもんだ。