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* 星 *


 

<満天の星> (1997.6.15)

 内蒙古の草原で見る星空は圧巻だ。
 初めて内蒙古に行った時、夜空を見上げて驚いた。知識としては知っていた。それでも驚く。数の何と多いこと、そして、ひとつひとつの何と大きいこと。
 余り大きいので、月と間違えた。
「そうか、モンゴルには月があんなに沢山あるんだ」
 後で聞いたら、星だった。
 星が月に見えるくらいだから、月なんて大変。日本では、小学校唱歌で「お盆のような月」と歌われるが、ここでは洗濯たらいぐらいある。

 空一面に広がる無数の星。周りは漆黒の闇だ。ネオンは言うに及ばず、人家の明かりも街灯もない。目の前にかざした自分の手が見えない。何とも驚いたことに、私たちは、夜がこれほどに暗いものであることさえ知らないんだ。そう、漆黒の闇。それだけに、星は輝きを増す。天空ばかりではない。地平線ギリギリまで星が見える。こういう光景は、日本ではお目に掛かれない。第一、日本では地平線がない。日も月も山の端から出入りすると相場が決まっている。やはり、小学唱歌にそんな歌があった。それが、内蒙古の草原では、文字どうりの満天の星。頭の上はもちろん、地平線スレスレのところまで、きちんと、星が置かれている。それも、三百六十度だ。それを見たときの、「ヘー」という感じを、何と表現すればよいのだろう。私のために、誰かが大切なものを惜しげもなくばらまいてくれた、とでも言えばよいだろうか。とにかく、何か凄くトクをした気分になる。
 私の会社では、「この夏、羊飼いになろう」と題した内蒙古のツアーを作っているが、そのパンフレットのなかでも、この星空の魅力を取り上げている。確か、「星を見よう! 手でつかめそう!」、というコピーになっているはずだ。本来、旅行のパンフレットでは天候などに左右され実現できない可能性のある事柄は書かないことが「良識」とされているのだが。それでも、一度この星空を見たら、「良識」を捨て、それを宣伝しないわけにはいかなかった。それ程に素晴らしい。
「手でつかめそう!」。大袈裟な、と思う人もいるだろう。実際は逆だ。相当に自制をした表現だ。正しい表現は、「手でつかめます!」。
 これは本当。
 初めてこのツアーを企画した年、添乗員としても行ってみた。その時、あるお客さんが夜空に向かって手を伸ばして何かを取ろうとしている。
「どうしたんですか」
「いや、あの星、そっちの赤いヤツを取ろうと思って」
「だめですよ。星は旅行費用には入っていませんから」
「追加料金はいくらだ」
 そのお客さんが言っていることはこうだ。あれだけ沢山あれば心配ない。ちょっとやそっとで無くなるわけがない、と。
 言われてみれば、そんな気にもなってくる。本当に空いっぱいにちりばめられている。それでもその時は、なんとか我慢してもらった。ただ、私の見ていないところでポケットにでも入れて持ち帰った人が、何人かいたかもしれない。


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