<ディズニーと海賊と>
つい最近上映が始まったディズニーの『ムーラン』も、海賊版の跋扈という点に関しては、『タイタニック』と同じような状況だ。
この映画は、アメリカでの公開が昨年の六月、こちらが今年の四月。十カ月のタイムラグがあった。中国政府が輸入をなかなか認めなかったからだ。それが、ここに来てようやく公開にこぎ着けたといういわく付きの作品だ。
やっとの思いで上演が始まったものの、観客の入りはさっぱり。新聞報道によると、「北京のある映画館では、上演開始直後でも観客は座席数の一割にも満たなかった」、とある。この予想外の不入りの理由として挙げられているのが、ここでも、海賊版VCD の氾濫だ。
映画館の入場料は三十元。親子三人で見に行くとなると……。そこへゆくと、海賊版の値段は、何と、十元。
実は、この三十元という入場料は一般の封切りの入場料の半額である。その意味では随分頑張ったわけだ。それでも、海賊版のVCD にはどうにも対抗のしようがない。何しろ、こっちには、コストが掛かっていないのだから。
中国政府が輸入を渋った理由はいろいろとりだたされていた。ディズニーが、以前、ダライ・ラマの生い立ちを描いた映画を制作したことがあったがそれが気に障ったとか……あるいは、『ムーラン』がモンゴル族を加害者として描いていることが、複雑な少数民族問題を抱える中国にとっては気がかりだったとか……。
とにもかくにも、ディズニーとしては、何とか中国との関係修復をはかるるべく、米国における対中国のロビイストのなかでも最高実力者といわれるキッシンジャー元大統領補佐官を顧問に招くまでして、公開までこぎつけたわけだ。ところが、予想外の不入り。ディズニーの敵は、どうも、「チベット」でも「モンゴル族」でもなく、海賊版のVCD であったということになるらしい。
そういえば、「カリブの海賊」というのが、本家・ロサンジェルスでも東京でも、ディズニーランドの最も人気のアトラクションだ。どうだろう、つい最近まで、「海賊」というのは自分たちの商売のネタだと思っていただろう。まさか「中国の海賊版」という強敵と戦うハメになるなんて、想像だにしなかったろうに……。
「中国ニセモノ考」の目次に戻ります
「旅は舞台 演じるのは」のトップ・メニューに戻ります
|