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<九十五%は違法コピー>

 違法コピー率は九十五%。
「ビジネス・ソフトウエア・アライアンス」というコンピュータソフトウエアの権利保護団体が、毎年、国別の違法コピー率というのを発表している。大抵、こういう団体はアメリカにあることになっている。その一九九八年における調査結果が五月二十五日の時事経由で日本にも伝えられた。九十五%。それによる中国の違法コピー率だ。つまり、中国で使用されている正規のソフトウエアというのは、百枚中でたった五枚しかないことになる。因みにこの違法コピー率、日本では三十一%。世界全体では三十八%であるという。中国の率の高さが分かろうというものだ。また、中国における違法コピーによる損害を額として計算すると十二億ドルにのぼるという。大変な金額だ。
 この九十五%という数字は、年々増えてきた九十五%だろうか? それとも、減ってきた九十五%だろうか? 「ビジネス・ソフトウエア・アライアンス」のホームページを見てみると、答えが分かる。一九九四年から九七年までの四年間の数字はこうだ。九十七%、九十六%、九十六%、九十六%。
 そう、減ってはきている。どう言ったらよいのだろう。頑張ってる? 殆ど前進していない?
 面白いことに、その少し前、四月七日の時事は、こんなニュースも伝えている。このほど中国政府は、コンピュータソフトの違法コピーの使用を禁止する旨の通達を出したが、これに対し、米通商代表部のバシェフスキー代表が「画期的な出来事」と高く評価した、と。どういうことかというと、実は、一九九五年に中国政府は、一度、全中央政府機関及び各省・自治区・直轄市に向け、「違法に複製したコンピューターソフトウエアの使用禁止に関する通知」というのを出したことがあるのだが、今回、改めて同通知の厳格な実行を求めた、ということなのだ。
 逆に言えば、「通達」が実行されていなかったということになるのだろう。上の数字はそれを示している。
 ともかくも、その「通達」に対して、アメリカは「画期的」と誉め称えたわけだ。
 アメリカも中国も、なかなか、面白い国だ。

 思い起こせば、かつてアメリカと中国の間で著作権などの侵害に関する激しいやりとりが交わされたことがあった。九十四、五年のことだ。CDやビデオソフト、コンピュータソフトの海賊版の取締の要求をアメリカは執拗に迫った。交渉は決裂し、アメリカは「スペシャル301条」に基づいた報復行動の採択を宣言し、近く中国から輸入される二十三品目の商品に対して百パーセントの懲罰的関税を課すとの警告を発した。金額にすると十数億ドルにのぼると言う。中国も負けてはいない。これに対し、「対外貿易法第七条」を盾にアメリカから輸入される七大商品に対して、同じく、百パーセントの懲罰的関税を課すと応じた。
 事態は貿易戦争の一歩手前のところまできていた。結局は、制裁発動ぎりぎりで交渉がまとまり、懲罰合戦は勃発寸前で回避されることになったのだが……。かなり迫力のある議論、あるいは怒鳴り合いであった。

 その激しい応酬のなかから中国の「通達」は生まれた。中国政府も何かを学んだのだ。そして、それから四年。中国は「通達」を繰り返し、アメリカはそれを「画期的」と褒めあげる。でも、実効はほとんどあがっていない。……。
 アメリカも中国も役者だ。嘘をついている、と言う意味ではない。中国政府は中国政府なりに真剣だ。北京に「中関村」というところがある。中国のシリコンバレーというのか北京の秋葉原というのか、とにかく、ハイテク産業が集中し、表通りにはパソコンショップが何百件と軒を並べる。そこは、同時に、数年前までコンピューターソフトの海賊版の見本市みたいなところであったが、今では、店で海賊版のソフトにお目に掛かることはない。当局の取締のためだ。厳しい査察が繰り返し繰り返し行われている。お陰で店からはコピーは消えた。
 ところが一方、上に見るように、違法コピー率は、この五年、ほとんど変わってはいない。友人の馬慶明さんに、「百枚のうち正規のものは五枚だよ」、と言ったら彼も驚いた。驚いてこう言った。「エッ、五枚もあるの」だって。
 おそらく、無理なのだ。この国の違法コピー率を急激に下げるのは。そんなことは、アメリカも中国政府もよく知っている。よく知っていながら怒鳴り合う。怒鳴り合いながら握手をしている。握手をしながら怒鳴り合う。そういう、テクニックというより、それ以前の国家としての本能……。「違法コピー」を巡るアメリカと中国のやり取りは、何やら、そんな大人らしさを感じさせる。


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