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<違法コピーはなくならない>

「中国のコンピューターソフトの違法コピー率を急速に下げるのは、おそらくは、無理なことだろう」。
 北京で暮らしているからだろうか。そんな気がしてしょうがない。「バカバカしい。誰が高い金を出して正規版なんか買うものか」。街全体にこういう雰囲気が溢れているのを感じてしまうのは私だけなのだろうか?

 前にも述べたように「中関村」というパソコン街がある。どの店にも、IBM 、コンパック、東芝、国産では連想、最新のハードウエアーが所狭しと並べられている。その周りに、若い人たちが群れを成している。店員との、殺気だった、値段のやり取りがある。目は明らかにモノを欲しがっている。自由市場で鶏を売り買いしているのと同じ、生々しい物欲のぶつかり合っているような雰囲気がある。
 そして、実際に多くの売り買いが成立している。買ったばかりのノートパソコンやプリンターを、いかにも嬉しそうに、抱えながら歩いている人は沢山見かける。秋葉原と変わらぬ風景だ。
 一方、ソフトの売場はどうか。面積も極端に狭い。お客もいない。秋葉原の、例えば「ラオックス」のソフト売場とは全然違う。ここでモノを買うのは場違いだ、何かそんな雰囲気が漂っている。  

 Windows98は、1998元。シャレてるわけだ。でも、これではいかにも高い。普通の勤め人の月給が800元とか1000元言っているのだ。ハードの値段は、というと、セレロンの333メガヘルツを載せたもので14インチのディスプレーつきで、4000元から売られている。
 Office97に至っては、安そうな店を探しどんなに交渉しても5000元が限度。メーカーからの強いお達しがあるそうな。
「これじゃ売れないでしょう」
「ああ、まず売れない」
 店の人も自信を持っている。
 それにしても、まったく売れなければ、売場をなくした方が得だ。間違って買って行く人もなかにはいる。どんな人か?
「それは、領収証の欲しい人ですよ」
 なるほどね。
 では、領収証の要らない人はどうするか? 勿論、海賊版を買うに決まっている。  

 先ほども言ったように、今では当局の監視が厳しく、店では海賊版は売っていない。どこで売っているかというと、道で売っている。道で売っていると言っても、VCD とは違って、店に並べて売っていたのではすぐに捕まってしまう。買いそうな人に、そっと、声を掛ける。
「ソフトあるけど……」
 見せてくれと言うと、付いてこいと言う。細い道に入り、何度が角を折れ、汚いビルに入り、階段をのぼる。二階の小さな部屋に入る。床の上に段ボールが二つ置いてあり、そのなかに海賊版のソフトが詰まっている。好きなモノを選べ、と言う。ゲームがほとんどだが、WindowsもOfficeも山のなかに入っている。値段はどれも10元。1998元のWindows98も5000元のOffice97も10元。平等なのが良心的? Office97、正規版は中国語版だけだが、海賊版は英文版まで付いている。サービスも良い?  

 10元で買えるモノに5000元を払うか? ほとんど狂気の沙汰? しかも、先ほども言ったように、月々の給料は1000元なんだから。
 中国の友人が言う。
「よほど義侠心を発揮しないとね……」
 大変だ。この国ではソフトを買うのに義侠心が要る。
 こう言ってみる。
「マイクロソフトがいけないんだろうか? 高くし過ぎていて」
 友人は笑って言う。
「和田さん、同じことですよ……。5000元じゃ買わない。3000元なら? 買わないでしょ。1000元? 買わないでしょ。500? 100? 50? 20? 中国人が買うのは、やっぱり10元だったりする」
 なるほど。マイクロソフトもよく考えている。中国人もやることが徹底している。まあ、両者で気が済むまでやってくれ。こんなところか。

 とにかく、中国の違法コピーというのは、そう簡単になくなるもんじゃない。それだけは、確かなことのような気がする。


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