《玉樹への道》

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(2) ヤクの大地

 どこか雄大な景色を見たいがどこに行ったらよいか?
 こう聞かれたら、私は躊躇することなく答える。青海省にお行きなさい、と。
 とにかく、広い。大草原が、果てしもなく広がっている。
 勿論、内蒙古の草原も広い。広いことは同じなのだが、その広さの感じが少し違う。何が違うのだろうか。私も旅行をしながらずっと考えていたのだが、おそらく、こういうことではないだろうか。
 青海は高原であること。三千メートルの標高に緑の草原がうち続き、四千メートルの峠を幾つも超えて車は走る。近く遠く、六千メートルを超える嶺嶺を見渡しながらのドライブである。
 青海の草原は、波を打ち、うねるように続いている。道はアップとダウンを繰り返し、高みから見下ろす緑の草原は一瀉千里、一望万里、言葉を失う広さなのである。
 一方、内蒙古はどうかというと、こちらは平らに広いのである。優しい起伏はあるものの高い山があるわけではない。四方八方地平線まで真っ平ら。それがすべて草原、風が吹くと草が揺れる。視力の限りの草が揺れる。地平線までの草が揺れる。そういう広さである。
 比較をすれば、内蒙古の草原が優しい女性的な美しさであり、青海のそれは野性的な雄大さ、と言ってもよいのではないだろうか。

 そこにヤクがいる。
 これがまた、何とも言えず、よい。
 長い、黒い毛におおわれ、いかにもモサッとした姿で群れをなし、モサモサと草をはんでいる。見ているだけでむさ苦しくなるヤクだが、チベット人はヤクなしには生活ができない。乳からチーズやバターをつくり、肉を食べ、毛を使って服やテントを作り、糞は燃料にする。荷物も運ぶし人も乗せる。しかも高地に強い。高山病で苦しんでいるヤクなんてみたことがない。
 チベット人だけではない。河口慧海もヘディンも橘瑞超も、彼らの旅行記を読めば分かる、ヤクなしにはチベットの地に入りこむことはできなかったのだ。同時に、ヤクにしてもチベットは別天地かも知れぬ。空気が薄い分、外敵もいなければ人も少ない。気温は低いが、ちゃんと厚い毛皮がついている。その厚い毛皮も、湿気が多いと脱ぎたくもなるが、乾燥しているから快適だ。
 チベットのためにヤクがいるのか、ヤクのためにチベットがあるのかよくわからぬが、とにかくチベットがあってそこにヤクがいる。不思議なほどウマくできている。

 で、先ほどの内蒙古との比較に戻ると、こう言えばよいだろうか。
 内蒙古の大草原は白く可愛い羊たちのための草原であり、青海の大草原は、モサッとしてヤクに似合った草原なのだ、と。

 青海は、ヤクの大地。


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