(3) 農村の夕暮れ
夕暮れ時にたまたま通りかかった村で車を停めた。
夏の夕暮れ。裸麦が黄色く実り風に揺れている。白い壁の家々。どの家の屋根にもタルチョが立てられている。夕餉の支度か、屋根のあちこちから煙が立ち上っている。懐かしいような気分に誘われて車を降りた。
庭先で女たちが涼しい風に吹かれながら談笑をしている。庭の奥では、男が牛の乳を搾っている。平和そのものだ。
あれほど青かった空にも夕暮れに色が迫ってきている。白い石の壁にも。五色のタルチョにも。夕餉の煙にも。
裸麦が揺れる。カサカサと音がする。風が涼しい。夕闇がさらに落ちてくる。タルチョも風に吹かれながら次第に色を失ってゆく。その風に乗って、チリンチリンという音が聞こえてくる。鈴の音? そう。子牛の首に掛けられた鈴だ。そこいらの草ッ原に放牧してあった子牛を家に連れて帰るところだ。チリンチリン。
夕闇がさらに濃くなる。タルチョも、白い壁も、チリンチリンも、女たちも。何もかもを夕闇が包みこむ。