《輪廻転生》

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(3) 前世の記憶?<2>

 チベットは、思わぬところに私たちを連れてゆく。そこは、人類が手に入れ得た至高の叡智が輝いている場所であるのかもしれない。あるいは、迷妄蒙昧の袋小路であるのかもしれない。
 臨死体験に関する本も読むことになる。そう、臨死体験。死の間際まで行って戻ってきた人々の体験。ワイス博士は言う。「ギャラップ調査によれば、アメリカでは子どもも含めて八百万人以上の人々が臨死体験をしています」。
 関心を持ち始めると、あまりに多くの本が出版されていることに驚かされる。『臨死体験』。バーバラ・ハリスというアメリカ人の女性が綴った本人の実体験(?)に基づいた本もある。その中で言う。人の臨終において、臨死体験に類した体験は少しも異常なものではないのだ。ごく普通の体験なのだ。そして、それを通じ、自分が宇宙の組織の一部であることを学ぶのだ。魂というのは死後も生きるのだ、と。まったく同名で、立花隆のように、この臨死体験という現象を、さまざまな例を分析的、客観的にに検証しようという試みもある。
 臨死体験には共通性があるという。自分の身体の上に浮かんで、自分を生き返らそうと努力をしている人々の姿を静かに見ていること。そして、強い光を見ること。その光に包まれ、深い歓びの感覚に満たされること。
 しかし、どの例も、死んだ経験ではない。死にそうになった経験にすぎない。棺桶から這い出てきた人はいても、灰のなかから蘇った人はいない。その限りにおいては、『前世治療』のキャサリンと同じだ。催眠術のなかで、本当に過去生を思い出したのか、それとも、幻想を見たにすぎないのか。

『前世治療』のキャサリンは、水が怖い。息がつまるのではないかと恐れて、錠剤を飲み込むことができない。催眠術をかけると、過去の生における洪水による溺死の経験を思い出した。ワイス博士は、そこから、ひとつの因果関係を導き出す。過去生という原因と、現生の症状という結果。
 しかし、逆も言い得るのではないか。「現生」の症状という原因が、「過去生」の洪水による死という幻想を生みだした、と。
 習ったことのない外国語を話す子供がいるという。これなどは、信じる人には、過去にも生があったことの有力な「証拠」だと言いたいところだろう。だが、「過去生」まで行かなくとも済むような、もう少し穏健な、解釈もきっとあることだろう。
 つまり、信じる人は信じるように辻褄をあわせることができるし、信じない人は信じないように辻褄をあわせることができる。世界っというのは、私たちが思う以上に旨くできている。そういうことではないだろうか。
 で、オマエ自身はどうなんだ。信じるのか信じないのか、と問われたら、何と答えたらよいだろう? うーん。ムズカシイ。
 先に引用した『前世治療』の一部分。「(略)アロンダ……、私は十八歳です。建物の前に市場が見えます。かごがあります……かごを肩に乗せて運んでいます。(略)時代は紀元前一八六三年です」。読みながら疑いが生じてくるのを禁じ得ない。ある場面を思い出すとき、人はこんな風に思い出すだろうか? 「建物の前に市場が見えます。かごがあります……かごを肩に乗せて運んでいます。」。これはいい。目の前に何かを見ている。でも、その前に「私は十八歳です」、というところから語り始められるのは、一体何だろう。逆ではないだろうか。かごを肩に乗せて運んでいるところから、十八歳であることが知れるのではないだろうか。さらに、決定的に分かりにくいのは、「時代は紀元前一八六三年です」。紀元前一八六三年に生きていた人は、勿論、その時代が紀元前一八六三年であることを知らない。こういう個所を読むと、「記憶」であるよりも、「再構成」されたもの、という感じがする。「再構成」したのは話し手の脳機能だ。先ほどの言い方に則せば、脳によって作り出された幻想ではないだろうか。そんな気がする。
 一方、続編の『前世治療A』に採り上げられているこういう例には深い真実味を感じてしまう。「ある時、一人の母親が取り乱して私の所へやって来ました。(略)その子の奇妙な行動は、母親が古いコインを買った時に始まりました。(略)娘はすぐそのコインを手に取って言いました。『私、このコインを知っているわ。ママ、憶えていない? 私がおとなでママが男の子だった時のことよ。私たち、このコインを持っていたでしょう。たくさん持っていたわね』」。
 ゾクゾクっと身を震わす凄みがある。子供の作り話であるより、「記憶」であると考えるほうが正しそうだ。

 ただ、結局のところ、私は信じていなそうだ。前世も、死後の世界も。死んだら終わり、そんな気がする。怖いですよね。でも、終わっちゃった方が気が楽だ、というところもある。気が楽だけど、やっぱり怖い……。


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