* 北京胡同物語・胡同の夏 *


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<真夜中でも夕涼み?>

 槐の下で、日中には、露天の物売りや行商人が昼寝をしている、と前に書いた。夕方になると、同じ槐の下に、今度は近くの住人たちがやってくる。三々五々の塊となって、腰を下ろして涼を取る。

 宴会があって夕方外に出る。暮れまどう薄暗がりのなか、夕食を終えたのだろう、人々が満足そうな顔をして、いや、暗くてひとりひとりの表情が見えるわけではないが仕事も終わった飯も食ったという満足感を身体いっぱいに表しながら、歩いている。家族連れ。仲間同士。そぞろ歩き。涼しい風が、昼間の炎天で火照った肌を優しくなだめてくれる。槐の下で輪になって雑談をする若い男女。所々にある街灯の下で将棋に興ずる老人……。夏の夜、日本では、灯りに集まるのは虫ということで相場が決まっているが、北京では将棋差しが集まってくる。
 むしろ、昼間よりも人通りが多いくらいだ。
 とにかく、のんびりとした時が流れている。いいものだ。「乗涼」。中国語でこういう。涼に乗ずる。なかなか感じが出ている。
「日本語では何と言います?」
 一緒にいた馬慶明さんが訊ねる。
「夕涼み。なかなかきれいな言葉だね。考えてみると」

 宴会が終わって戻ってくると、まだ人がいる。まだ人がいるというより、先ほどと数は変わらない。もう、十一時を過ぎている。ほとんど真っ暗闇のなか、家族連れ、仲間同士のそぞろ歩き。槐の下の輪。街灯の下の将棋。この人たちはいつまでそぞろ歩きをやっているんだ? いつまで輪になって雑談をしているんだ? いつまで将棋をしているんだ?
「和田所長、これも夕涼みですかね?」
「いや、何て言うのかね。深夜涼み?」
 それにしても……。北京に数限りなくある胡同で、表通りで、公園で、真っ暗闇のなか、一体どれぐらいの人が、深夜涼みをしているのだろう。今この時、街灯の下で何組ぐらいの人が将棋を指しているんだろう。微笑ましいような、不気味であるような……。


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