<7月23日に蝉は鳴いたか?>
23日が来た。大暑だ。果たして、北京中に蝉の鳴き声が響くのか?
朝から強い雨が降っていた。気温も涼しい。これなら最高気温でも、二十六、七度だろうか。「大暑」らしくない。それでも大暑は大暑。雨が多少激しくても、風が多少横殴りでも、そんなことは言ってられない。午前中、傘を差して外へでた。
蝉なんて一匹も鳴いてやしない。街路樹の多いところを選んで三十分ほど歩き回ったが、聞こえたのは雨が激しく葉を打つ音と、風が枝を揺らす音だけだ。肩も、ズボンもびしょびしょにして事務所に戻った。
「馬さん、今日、蝉鳴いてないよ。中国では昔から決まっているんじゃなかったの?」
「所長は、この雨の中、どこへ行くかと思ったら……いやだな、中国では昔から決まっているんですよ。雨の日に蝉は鳴かないって」
「どうして?」
「どうしてって、蝉も考えるんですよ、雨の葉に当たる音を聴きながら、来し方行く末を。じっと静かにね。そして、雨が止んだら、また、一斉に鳴き出すんですよ、短い生を燃え尽きさすようにね……」
「そうか」
「そうですよ」
よし。明日を待とう。明日を。明日の天気予報は? 晴れだ。
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