かつて、「天橋」というカオスがあった。民衆の享楽のすべてが揃っていた。芝居小屋が並び露天の市が立ち飲み屋があり茶屋があった。処刑場まであった。北に紫禁城が聳え、南に天橋の市が地に這っていた。皇城が秩序の権化なら、天橋は民衆の欲望の巣窟であった。 光があれば陰があるように。光が強ければ、陰が濃いように。皇城の秩序と天橋のカオスは、ふたつながらに北京という街を成り立たせていた。ふたつながらに、人々が生きていくうえで求めて止まぬ、権力という整然と非権力という混沌を具現していた。
その天橋の昔と今をお伝えしたい。