* 北京胡同物語・北京秋天 *


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<秋の果物(2)>

 市場で石榴(ザクロ)と柿を買った。二個ずつ。
 食卓に並べて、しばし、ボーと眺めた。眺めているうちに思った。なかなかに不思議な取り合わせだ。
 柿は、平べったいところが何とも可愛いげだ。色も可憐で美しい。日本や朝鮮、中国の鄙びた里の秋。そんな感じだ。
 石榴の形は逆に縦長だ。大きさも、柿よりもかなり大きい。色も黄紅色というのだろうか。赤に黄が混じった、如何にも自己主張の強い色をしている。丸々と張った質量感が生命力の強さを象徴しているかのようだ。張りすぎていて果皮が裂けている。その裂け目から、赤い種皮に包まれた種が無数に詰まっているのが見える。
 その種を種皮ごと口に含むと、甘酸っぱく、どこか幻想的で、ペルシャの市場の味がする。

 こう喩えたらいいだろうか。
 柿は、可憐な東洋の処女。石榴は、男の身体を知り尽くした中央アジアの熟女。
 柿や石榴を食うぐらいのことで、そんなことまで考えなくてもいい?
 いや、まったくその通り。私もそう思いますが、せっかくここまで来たのですから、もう少し続けさせて下さい。

 石榴が甘酸っぱいのはいい。そういうものなのだろうから。意外だったのが、柿。見るからに美味そうなのだが、皮をむき食べてみると、これが渋い。半分食べたら渋さに口中が痺れた。全部食べたら、気持ちが悪くなった。
 馬慶明さんに聞いてみる。
「中国の処女って、みんな渋いんだろうか?」
 いや、冗談です。
「中国の柿って、みんな渋いんだろうか?」
「それは、所長の食べたのはまだ熟していないからですよ」
「ちゃんと食べ頃に熟れているんだよ」
「でもまだ固かったでしょ。中国の柿は、指で押したら指がズーと中まで入るくらいに柔らかくなってから食べるんですよ」
「フーン」
 というわけで、残り一個はそのままほおっておいた。一週間して、指で触ると柔らかくなっている。力を入れずとも握りつぶせるほどだ。食べてみる。確かに甘い。あの口中が痺れた柿と同じ柿とは思えない。それでも、どうも中国の柿は好きにはなれそうもないな、と思った。
 翌日、馬さんに言った。
「オレは、シャキッとした歯触りが好きなんだよね。みずみずしい……」
「そうですかね。私は、グチャッとした舌触りが好きですね。腐る少し手前ぐらいの……」

 以前、『黄河幻想』という著書のなかで、こんなことを書いたことがある。日本と中国の違いについてだ。日本人は豆腐を湯豆腐で食べる。湯で温めただけの真っ白い豆腐をツルリっと食べる。中国人は、同じ豆腐を麻婆豆腐にする。豚肉と香辛料でどろどろにして食べる、と。そのことを思い出した。
 柿も豆腐と同じか……。
 勿論、柿と豆腐は違う。豆腐の料理は、人が作るものだ。柿が渋いのは、自然にそうなるのだ。それでも、柿と豆腐は同じなのだ。きっと何らかの関連性はあるのだ。ツルッとした豆腐とシャキッと柿。どろどろした豆腐とグチャッとした柿。人が豆腐を作るのが先なのか、柿を生む大地が人を作るのが先なのか……。きっと、そういう何かがあるのだ。


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