街角の歌声メニュー 旅チャイナ・トップ 中国旅行大全・北京編 ホテル大全
レストラン大全 『雑踏に酔う』・試聴 三輪車胡同巡り 格安航空券

* 北京・街角の歌ごえ *


<ボロ切れを振り回して……>

 街角に若い女性が立っている。足下には大きなバケツが三つ四つ置いてある。手にはボロボロの布切れを持っている。車が通り掛かるとその布切れを振り回す。車がスピードを緩めると、布切れを振り回しながら猛然と駈け出す。彼女は何だ。

 彼女は車洗いを生業としている。
 車を捕らえ、一台洗って十元(一元は約十六円)。
 ひとりで獲物を追うこともある。アジアの密林でヒョウが水牛を襲うように。数人のグループで獲物を追うこともある。アフリカのサバンナで一頭のシマウマに狙いを定め、一斉に襲いかかる数頭のライオンのように。

 彼女たちの朝は早い。七時頃には、もう、車を追っている。冬の七時はまだ暗い。外の気温はマイナス四、五度。吹く風は強く、刺すように冷たい。バケツの水は冷たいのを通り越して痛い。それでも、彼女たちの顔には屈託がない。車が通る度に必死にボロの布切れを振り回す。止まってくれる車はそんなにはない。一時間に一台か二台。しかし、何とか捕まえなければ今日の飯にありつけない。それだけに、獲物に襲いかかる彼女たちの姿は精悍でもあり獰猛でもある。

 北京の街にはどれくらいの車洗いがいるのだろう。四、五千人? 無論、北京の人ではない。北京の人は、誰も、こんな仕事はしやしない。みな地方から出稼ぎだ。なぜか、河南省、安徽省の人が多いと聞く。辛くとも金にはなるのか。家族が仕送りを待っているのか。あるいは、コツコツ貯めていつか故郷で小さな食堂でも開こうというのか。
 今の中国にそれほど自家用車があるわけではない。彼女たちの客の多くはタクシーか企業に雇われた運転手たちだ。諺に謂う。駕籠に乗る人担ぐ人、そのまた草鞋を作る人、と。彼女たちはどんな存在なのだろう。少しも生産的でない。草鞋を作っていることにもならないだろう。ある日突然に全員が消えてなくなくなっても誰も困るまい。それでも、彼女たちは、今日も必死になって、ボロ切れを振り回し続ける。


街角の歌声メニュー 旅チャイナ・トップ 中国旅行大全・北京編 ホテル大全
レストラン大全 中国で本を出版 三輪車胡同巡り 格安航空券