今の北京は街中が工事現場だ。地方から来た出稼ぎのヘルメットが街中に溢れている。前に書いたとおりだ。
　もうひとつ、街で目立つもの。それは、結婚記念用の写真館。三、四年前からの流行だ。カップルで化粧をして、ウェディングドレスを着て、写真を撮って……中国人というのはポーズを取るのが好きだ、好きだし日本人みたいに照れたりしない。素人だって何だって、二人して、見ている方が恥ずかしくなるような演技過剰なポーズで写真に収まることができる不思議な民族だ……料金はセットで3888元（一元は約十六円）。王府井、東単、西単などの繁華街にはこうした写真館が軒を接するように並んでいる。どこもガラス張りで、化粧をしている様子が外から見えるようになっている。
　このヘルメットとウェディングドレスが出会う。それは自然な成り行きだ。ともに街に溢れているんだから。自然な成り行きだが、でも、どこか奇妙だ。ヘルメットの視線は如何なる心の動きを示しているのだろう？　羨望？　そうかも知れない。そうかも知れないが、ちょっと違う気がする。驚き？　そうかも知れない。そうかも知れないが、ちょっと違う気がする。無関係？　関心があるから立ち止まってみている。そうだろう。それにしても、無関係。そんな視線であるような気がする。動物園の檻の向こうにサルを見ているような。サルがバナナを食っている。羨ましい？　そんなことはない。驚いた？　そんなこともない。ただ見ている。面白いから。でも、サルはサル。オレとは関係ない。そんな感じがする。
　ヘルメットの月給は写真のセットの何ヶ月分か？　そういう詮索は、勿論、可能だ。３カ月分ぐらいだろうか。でも、そんな比較は、おそらく、意味がない。出稼ぎの日当は日当であり、ポーズはポーズだ。それがたまたま北京で出会った。その意味がないところが、今の中国だ。
　先ほども言った。ヘルメットとウェディングドレスの出会いは自然でもあり奇妙でもある。その自然さと奇妙さが、普請中の普請中たる所以であるのだ。