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* 北京・街角の歌ごえ *


<白菜からスイカへ>

 白菜売りというのが北京の街の冬の風物誌であった。11月の初旬、立冬の頃になると街角に白菜売りが姿を現した。北京の街で白菜を売ったり買ったりするというのは、リンゴを二個売ったり、ナシを三個買ったりするのとは訳が違う。売る方は、トラックや馬車で山のように運んでくる。買う方は、大八車で小山のように買ってゆく。道路脇に白菜が溢れる。街角が市のようになる。
 冬の野菜はこれしかなかった。来年の春までの一家の貴重なビタミン源であった。腐らさぬよう春まで保存し、少しずつ大切に食べる。これが、白菜であった。だからこそ、国は農民に割り当てをして作らせた。市民は先を争って買った。白菜の売り買いは、一大イベントであったのだ。冷たい空気の中、みずみずしい白さが印象的だった。毎年その光景を見る度に、「ああ、冬が来るんだ」、と思ったものだ。

 ところが、これは、昔の話になってしまったらしい。温室栽培が普及した。生活が贅沢になった。人々の嗜好も変わった。「新鮮な野菜がいつでもあるじゃない」。「白菜ばかり食べていられるか」。と、いうわけで、いつの間にか、白菜を山と積み上げた光景はなくなってしまった。人々は野菜市場で、リンゴやナシを買うように、必要なときに、一つ二つと買うようになった。
 冬の風物詩がひとつ減った。そういうことになるのだろう。

 ところが、先日、以前白菜が山のように積まれていた場所に馬車が止まっているのに出くわした。「いまでもここでは白菜を馬車で売っているんだ」。懐かしい気持ちで近寄って行った。見て驚いた。馬車に積んであったのは、何と、スイカであった。
「海南島のスイカだよ。甘いよ」
 男がひとり、綿のコートを羽織り、それでも寒い、北風に震えながらスイカをポンポンと叩きながら売っている。
「どこから来たの?」
「海南島」
「いや、スイカじゃなくてあなたは?」
「大興県」
 大興県といえば、白菜の産地として名高かったところだ。今じゃ、そこの農民が白菜を作らず海南島のスイカを売っている。
 なるほどねー。こうやって世間は変わって行くんだ。


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