市場に身を置いて、人々を眺めているのは楽しい。時が経つのを忘れるほどだ。

　日本から来た人に北京の印象を尋ねると、しばしばこう言われる。笑顔をないね、と。人々の表情が硬くて取っつきにくい印象を与えることが多いようだ。言われてみると、思い当たらないではない。

　そう言われる彼らが確実に楽しそうな顔をしているところが二ヶ所ある。ひとつはレストラン。食べているときの彼らは、本当に、嬉しそうだ。もうひとつは、市場。売っている方ではない。買っている方。ナスひとつ買うにも、手に取って掌で重さを測り、日にかざしたり、隣の亭主に何か論評を求めたり、負けろ負けないと言い合ったり。
　これだけ楽しめば、ナスも安いものだ。
　それで買わなければ、もっと得だ。
　とにかく、市場での彼らは、実に生き生きとした表情をしている。