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* 北京・街角の歌ごえ *


<豚の頭>

 露天の店に豚の頭が並んでいる。勿論食べるのだろう。アクセサリーとか床の間の飾りにはなりにくい。
 それにしてもどうやって料理するのだろう。鯛のかぶと焼きみたいにして頭からかじっちゃう?  

 おりもおり、『金瓶梅』を読んでいたら、丁度、豚の頭を調理する場面に出くわした。豚の頭を煮るのが得意なかみさんが、薪一本でとろとろ煮る、という下りだ。こう書いてある。
「そういって立ち上がると、台所の炊事場へゆき、鍋に水をくんで、豚の頭と足をきれいに剃りあげました。そうして長い薪を一本だけかまどに入れ、油と醤油を大きな碗に一杯、それから茴香と大料をくわえてよくかきまぜ、錫の蓋つき茶碗のようにぴったり蓋をします。いっときもたたぬうちに、豚の頭はすっかり煮えて、皮は剥がれ、肉はとろけ、ぷんぷんといい香りがして、五味まったくそなわり、そこでこれをすがすがしい大皿に盛り(以下略)」(「第二十三回」小野忍・千田九一氏訳)
「すがすがしい大皿に盛り」というくらいだからやはりこのままの形で煮るのだろう。

 豚の頭を丸ごと煮込むねぇ、やっぱり中国人の考えることは凄いなあ、と感心していたら、馬慶明が、
「所長、この近くに豚の頭で有名な店がありますよ。知らないんですか」、だって。
 そんなの知るわけないよね。豚の頭の専門店なんか。なんでも店の名は「金三元」、料理の名は、「●猪臉」(●は手編に八)というのだそうだ。本当に中国ってなんでもあるね。近々いって研究をしてきます。

 それにしても、この豚さんの顔。味わいがありますね。静かに瞑想に耽っているようだ。油と醤油でとろとろ煮られることも少しも意に介していない。皮は剥がれ肉はとろけてもどうってことはない。そういう悟りきったような表情ですね。中国人も偉いけど、中国の豚さんもエライ。


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