建国五十周年。十月一日の国慶節には天安門前で、軍事パレードを含む、総動員数十万人を越える大行進を行うという。その国慶節にあわせて北京を造り替える工事が街中で進められている。そう、国の威信を懸けた大工事。それが、いよいよ急ピッチになってきた。
　地安門でも道路の大規模な拡張工事が行われている。道幅を５０メートルにし、その名も「平安大街」に改めるという。道の両側の民家が次々に倒されて行く。四川省から出稼ぎできた若者が屋根にのぼり、ハンマーでガンガン壊して行く。土煙がモウモウとあがる。つい昨日まで老人が憩い、子供たちが遊んでいた胡同をブルトーザーがバキバキと平らにして行く。
　北京の人々が造った街を、四川の人々が壊している。そう言ったら、無論、見当はずれの言い方になるだろう。それでも、現場で家が壊されている様子を見ていると、工事の重点はその後の建設にあるよりも、現にいま行われている破壊にあるように思えてくる。
　そこに住んでいる人々は、唖然として、見守るしかない。子供の頃の記憶かも知れない。あるいは、子供を育てた思い出かも知れない。深く親しみ、長く見慣れてきた光景が余りにあっさりと壊されて行くので、とっくに感傷を通り越え、爽快でさえあるのかも知れない。