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* 北京・街角の歌ごえ *


<天壇(10)>

 天壇公園の主役は老人である。間違いない。
 トランプをする老人たち。京劇の稽古をする老人たち。それを取り囲み喝采を送る老人たち。ダンスをする老人たち。ひたすら、おでこをこする老人たち。
 ただ、何度も通っているうちに分かってくることがある。それは、ここには、もうひとりの主役がいるのだ、ということだ。

 天壇公園のもうひとりの主役、それは、木である。老樹。こちらでは「柏」という。でも、日本でいう柏とは違う。檜に近いだろうか。葉がチリチリになっている。日本では柏餅というのがあるが、こちらの柏では餅を包めない。こんな柏餅では食べるのも大変だ。
 園内には無数の老柏が幹をシワだらけにしながら、あるいは、瘤だらけにしながら、佇んでいる。じっと静かに佇んでいる。三千本を超えるという。ほとんどは樹齢二百年以上。樹齢五百年をこすものだけでも一千本以上あるという。五百年の沈黙。五百年の佇立。

 老柏に老人が身体をすりつけている。ゴツゴツした幹に背中をもたれ上下にこする。合わせて六百歳? そうやって、三十分でも四十分でもこすっている。五百年の霊気を自分の身のうちに吸い取ろうとしているのだろうか。
 樹の下でじっと立っている老人もいる。こちらも、同じく、三十分でも四十分でも立っている。たまに両手を拡げ息を大きく吸い込む。五百年の柏の記憶を吸い込むように。五百年の祈りを吸い込むように。
 確かに、三十分ぐらい立っていることなぞ、柏が五百年じっと立ったままであることに比べればどうってことはない。

 天壇公園では一方の主役である老人と、もう一方の主役である老柏が向かい合い、呼吸を合わせようとしている。気を通わせようとしている。


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