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* 北京・街角の歌ごえ *


<北京駅(2)>

 ハルピンからの列車がホームに入ってくる。
 出迎えの人々の表情は、誰もが、不安げだ。なぜだろう。人は多い、フォームは長い。こんな北京駅で上手く会えるものなのだろうか。そういう不安? 下放先から自分は先に帰ってきた。アイツはあの極貧の農村に残って二十年。昔のように、隔てなく話が出来るだろうか。そういう不安? 花の都に憧れて親の反対を押し切って家出同然に北京に来てから五年。工事現場に汗を流して小金も貯め、初めて親を呼んでみた。お袋はもう許してくれているだろうか。そういう不安? 「下崗」になった亭主が貯金を掻き集めて故郷に帰って三年。失敗に失敗を重ねスッテンテンになって戻ってくる。どんな顔して戻って来るんだろう。私はどういう顔をして出迎えればいいのだろう。これからどうなるんだろう。そういう不安?

 人々の顔をなごむのは、まだ動いている列車から同様に不安な面もちで自分を捜している誰かと目があう瞬間だ。「ともかくも、会えた」。そういう安堵に表情が変わる。人々は、窓辺に、乗降口に一斉に走り寄る。

 私は、迎えるべき人もいないのに、列車がフォームに入ってくるときの光景を見たくて、幾度となく北京駅に足を運んだ。そこにあるのは、いつでも、不安の表情、安堵の表情、そして、待てずに走りだす人々の姿だ。


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