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* 北京・街角の歌ごえ *


<観相師>

 北京一番の目抜き通りといえば長安街。その長安街の歩道のへり、槐の木陰に、ひとりの老人が腰掛けている。腰掛けたまま、じっと動かない。彼の前には、一枚の紙が置かれ、紙の四隅は石ころが置かれている。
 紙には、達筆な字で「観相」と書かれている。
 そっと、後ろから見ていた。どんな客が来るのだろう。
 西日が老人の背中を照らす。イスに腰掛けているのではない。歩道に新聞紙が敷いてあるだけである。その新聞紙に尻を落とし、肘を膝の上に置いている。少しも「それらしく」ない。ただの老人だ。敢えて、違ったところを探しだそうとすれば、少し深めにかぶった黒い網のソフト帽だろうか。だけが、普通の老人とは違った雰囲気を醸し出している。
 通りかかる人は、勿論、沢山いる。ただ、ほとんどの人は目もくれない。老人の存在が道端の石ころぐらいにしか見えていないのかも知れない。時たま、ちらっと、紙の字に目をやる人はいる。老人は微動だにしない。その時たまのうちの、そのまた時たまに立ち止まって何やら老人に声を掛ける人もいる。そんな時、老人は上目使いに人を見上げる。そのまま立ち去ると、老人は、また、老人は微動だにしなくなる。
 三十分ほど経ったが、実際に金を払って占いをして貰おうという客は、ひとりもいない。

「これで商売になります?」
「勿論。運の悪い人は運が悪いゆえの悩みがあり、金持ちは金持ちであるがゆえの悩みがある。ワシはここで八年やっている。これだけ人が歩いている。金を払ってくれる人はいる」
 本当だろうか。そうは思えないが……。
「稼ぎは?」
「そうさな、月に二、三千元(一元は約十六円)かな」
 大変なものだ。公務員の平均的な月収は八百元ぐらいと言われている。役所に勤めているより占いでもやっている方がよっぽど儲かるし、面白い?
「あなたも見てあげよう」
 いくら払えばよいのだろう。想像がつかない。
「観相に値段はない。あなたの払いたいだけ払えばよい」
 払いたいだけ……。十元でも十五元でもいいのだろうか? それならやってみるか。

 払う段になって、迷ったが、十元札を二枚だした。すると、手を振って受け取らない。
「四季という。季節でさえ四つある。これだけの運勢を背負ったあなたが二十元ということはないでしょう」
 人相の見料と四季とどういう関係があるんだ。
「四元がいいの?」
「いやいや、何をおっしゃる……」
 面倒くさいから、四十元払ってその場を立ち去った。なるほど、うまくできている。ちゃんと金を払う人が現れた。でも、詐欺みたいなもの?

「社会主義中国と占いの関係は如何に」。「大変動期であるがゆえの大衆の不安と占い師の役割」。そんなことを言いたいのではない。紙一枚、石ころ四つ。それだけ。あとは、黒いソフト。それだけを元手にリッパに飯を食っている人がいる。詐欺でも何でもいいんだ。街角から沸き上がってくる民衆のエネルギー、そのひとつの表現。そう言ったらよいだろうか。


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