大通りには近代的な高層ビルが建ち並んでいる。だが、そこから一歩なかに入ると、そこは別世界。曲がりくねった細い道、その両側には平屋の家屋が繋がって続いている。灰色の壁、黒い瓦の屋根。古い北京が静かに息づいている
　北京では、その横丁を「胡同」と呼ぶ。
　その数は、およそ三千という。三千。「大袈裟に過ぎない」。こう感じるかも知れない。「『白髪三千丈』の三千と同じじゃない」。こう思うかも知れない。でも、この数字は誇張ではない。北京の街を歩いてみたらいい。すぐに分かる。本当に、街中至る所に「胡同」がある。街の真ん中、東京で言えば銀座や大手町にあたるところにも、「胡同」があり、女たちは立ち話をし、子供は宿題をし、年寄りは鉢植えの花を育てている。近代的な高層ビルが建ち並んでも、そこから、人々の生活の匂いが消えない。それが、北京という街の不思議さである。
　大通りを脇に入れば、「胡同」がある。その「胡同」を抜ければ、別な「胡同」がある。「胡同」から分かれて、また別な「胡同」に繋がる。街中に「胡同」がある。北京の街のなかに胡同があるのではない。逆だ。胡同のなかに北京という街がある。