街角の歌声メニュー 旅チャイナ・トップ 中国旅行大全・北京編 ホテル大全
レストラン大全 『雑踏に酔う』・試聴 三輪車胡同巡り 格安航空券

* 北京・街角の歌ごえ *


<胡同(2)>

 胡同は様々な物売りの声や音で溢れている。
 季節によっても違う。春には金魚売り。夏にはスイカ。秋にはほうき。冬には練炭。
 秋のほうきには注釈が要るだろうか。北京には、秋になると、毎年、「とりたて」の藁で作ったほうきが出回るのだ。刈り取られ、実を採られた後の高梁や蒿(中国ではこう呼ぶが日本はヨモギと言われるものだろうか)の穂や茎で作ったほうきである。それを自転車いっぱいに積んで胡同から胡同を売り廻る。こういったほうきは大抵一年はもたない。だから、丁度好いタイミングで新しいほうきが迎えられる。女房とほうきは新しいのに限る?
「できたてー。できたばかりのほうきー」、と言っているかどうかは知らないが、ともかくも、胡同には様々な物売りがいる。そして、それぞれにそれぞれの節回しがある。一声聞いただけでも何を売りに来ているのかが分かることになっている。
 

 勿論季節によらないものもある。豆腐売り穀物売り野菜売り、廃品の回収、鍋直し、刃物研ぎ。なかでも刃物研ぎは面白い。自転車に乗り、鉄片を繋げたものを振ってチャリンチャリンと音を立てながら路地を廻る。自転車には刃物を研ぐための道具が一式積んである。大抵は紺の帽子をかぶり、腰には同じく紺の前掛けを巻いている。まあ、制服みたいなものだ。昔は何でもそうだったのだろう。ひとつの生業には、ひとつの装束。それは哀しみでもあり誇りでもあっただろうか。ひとつ研いで二元(一元は約十四円)。彼らの手に掛かると、ボロボロの包丁も新品以上の切れ味になるという。北京中に何人ぐらいいるのだろう。紺の帽子に紺の前掛け。この、昔ながらの出で立ちの刃物研ぎが、毎日毎日、雨の日も風の日も胡同をチャリンチャリンの音を響かせながら廻っている。チャリンチャリンの音が響けば、あちこちの戸口から声が掛かる。包丁やハサミやナイフ。腕がいい。腕がいいから存在できる? 大量生産に大量消費。使い捨て。今までとは違う消費の姿がそこまで来ている。それでも、チャリンチャリンは生き残れるのか? それとも、現代的な巨大マンションが次第に胡同を押しつぶして行くように、彼らは程なく北京の街から消えて行くのだろうか?
 その音とその装束が胡同の風情とピッタリ合っていることだけは確かだ。きっと、胡同がある限りそこにはチャリンチャリンの音が響いているのだろう。


街角の歌声メニュー 旅チャイナ・トップ 中国旅行大全・北京編 ホテル大全
レストラン大全 中国で本を出版 三輪車胡同巡り 格安航空券