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* 北京・街角の歌ごえ *


<写生>

 北京の街の真ん真ん中で子供たちが写生をしている。彼らの視線の先には、ガラス張りの近代的建築群が天を摩して建ち並んでいる。完成すればアジア最大規模のコンプレックスになると言われる東方広場だ。平屋の民家が並ぶ胡同を取り壊し、建国五十周年の国慶節に向けて忽然と出現をした。先生がここを選んだのにはそれなりの理由があるのだろう。明日の北京の象徴? そういえば、北京最高の一等地であるこの土地の取引を巡って前の北京市長が逮捕され、副市長は自殺したっけ。

 暫く子供たちを見ていた。みな、驚くほどに、おとなしい。歩道の一角にきちんと坐っている。ブラブラ歩き回ったり、隣の女の子のお下げを引っ張っているような子はひとりもいない。平日の昼下がり。秋の陽が優しく子供たちの背をあぶる。
 そうか、北京の子はおとなしいのか。オレだちがガキの頃とは大違いだ。私たちの小学校時代なら、先生に言われたとおりにじっと絵を描いている子なんて一人もいなかったに違いない。アチコチで喧嘩が始まっていただろう。

 もうひとつ驚いたことがあった。子供たちの周りをぐるりとギャラリーが取り囲んでいること。親やお爺ちゃんお婆ちゃんとおぼしいが、そんなことがあるのだろうか? 中国では、子供の写生に親がついて行く? いや、間違いなさそうだ。そのうち、我慢できなくなった何人かの親が子供の後ろに立って何かを言いだした。それでも物足りない。やがて、子供のクレヨンを取り上げて自分で描き始める親もいる。中国では親も大変だ、と言うべきなのか。子供も大変だ、と言うべきなのか。


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