旅チャイナ(トップ)|チベット青蔵鉄道|チベット入域許可書|カイラス倶楽部| <青海省・青海湖> 青海省はその面積のほとんどを高原が占める。海抜三千メートルをこえる高原が果てしもなくうち続く。その青海省にひとつの湖がある。名を青海湖という。モンゴル語で「ココノール」。青い湖という意味だそうだ。チベット語では「ツォ・ンゴンボ」。これも青い湖。つまり、誰が名付けても「青い湖」。よほど青いのだろうと思って行ってみると、これが、本当に青い。さらに驚いたことには、八月の初旬であったのだが、湖畔は一面の菜の花に覆われていた。黄色い絨毯を敷き詰めたように菜の花畑が広がり、その向こうには青い青い青海湖。さらにその先には五千メートルを超える青海の山々。それらが透き通った空気のなかで、一度にワッと視界に入ってくる。呆然とするほど美しい。 その菜の花畑で、風景に背を向け、忙しげに立ち働いている男たちがいた。養蜂を生業とする、人懐こい五人組であった。 湖北省の咸寧から来たという。春にはレンゲが田畑を薄紫に染め尽くす。「故郷のレンゲからは良い蜂蜜ができるのさ」。四月の半ば、レンゲが終わると旅にでる。それ以来ずっと菜の花を追ってきた。甘粛省の隴西。同じく臨?。そして、青海湖。その菜の花も青海湖が最後。それもいよいよ終わりだ。明日にはテントを畳む。 「家に帰るの?」「いや、次は陝西省の定辺」。ソバの花がまだ一ヶ月咲くと言う。蜜蜂の箱とテントを積んだオンボロトラックがソバの白い花を目指して東に走ってゆく。そんな様子が瞼に浮かぶ。 花を追い旅から旅の人生。気楽なようでもあり、切ないようでもある。話を聞いているうちに、胸がキュッと鳴った。どちらにしも、羨ましいな。人類が本能的に持っている旅心が否応もなく掻き立てられる。そんな、一瞬の出会いであった。 (中日新聞・東京新聞の2001年9月23日日曜版に掲載)
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