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<陝西省・五丈原>

 五丈原は高台。北に渭水を望む。渭水を越えれば、長安もすぐそこ。魏の西の防衛線を突破することになる。執拗に宿敵・魏に挑むこと五度。今回は秦嶺山脈の険をこえての進軍であった。一方、迎え撃つは魏の大将軍・司馬仲達。渭水北岸に陣を敷く。河を挟み対峙すること百余日。早く決着をつけたい孔明。持久戦に持ち込みたい仲達。女性用の頭巾や首飾りを送り戦かわぬことを揶揄する孔明。それでも戦おうとしない仲達。
 クライマックスである。「桃園の契り」から「三顧の礼」「赤壁の戦い」、関羽・張飛・劉備の相次ぐ死と進んできた『三国志演義』の最後の最後のヤマ場である。学生の頃から幾度となく読んできた。その物語の現場に立てるということは、きっと、贅沢なことなのだろう。
 下の村から石段を登る。登り切ったところに「武侯祠」が建てられていた。孔明がそうしたであろうように遠く北の方を見遣るが、生憎の霧で渭水さえも見えない。黄色い大地が茫々と広がっているだけである。往時の鬨の声を想像しようとする。孔明の無念を想像しようとする。それにしても、余りに昔のことだ。孔明がこの陣中に病死をしたのは西暦二三四年。もう千八百年も前のことだ。
 石段の脇で女たちが洗濯をしている。おしゃべりをしながら楽しそうだ。湧き水でもあるのだろうか。
「ええ、この泉は孔明が見つけましてね……」。その口ぶりが印象に残った。「私のお爺さんが三年前に裏山で泉を見つけましてね……」。まるで、そんな口調なのである。なるほど。私たちには大昔の、真偽のほども霧に霞んだ物語であるのだが、彼らにとってはついこの前の身近な事件であるのだろう。

 五丈原に限ったことではないかも知れぬ。中国の黄色い大地には不思議な時間が流れている。

(中日新聞・東京新聞の2003年3月9日日曜版に掲載)


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