<広西壮族自治区・陽朔>
漓江下りの終点である。従来は、船が着くとそのまま桂林へ戻るためのバスに乗り込む、そういう場所であった。ところが最近、この街そのものが脚光を浴びるようになってきた。
「洋人街」というのができている。
これが面白い。
洋人とは西洋人のことである。ヨーロッパ風に作られたレストランやカフェがずらっと並んでいる。そして実際に、通りには白人が溢れ、レストランでは白人がコーヒーを飲んだりスパゲティーを食べたりしている。
しかし、ヨーロッパ風に改造されたのはレストランの内部だけで、建物全体はこの地方独特の白壁に黒い瓦である。しかも、街の至るところから奇峰・奇岩が望めるのである。
つまり、墨絵のような峰峰のなかに広西独特の白壁の民家が建ち並び、そこで白人がスパゲティーを食っている、というアンバランスの街である。そのアンバランスのためだろうか、とにかく、歩いているだけで、なにか、ワクワクする楽しさがある。
アンバランスは「洋人街」という一本の通りだけではない。
先ほども述べたように辺り至る所に奇峰・奇岩があるのだが、それを若い白人の男女は貸し自転車に乗って廻っている。奇峰・奇岩というものは船に乗って見るものだと思い込んでいた私にはいささかショックであった。
しかし、更にショックだったのは、彼らが奇峰でロッククライミングをしているのを見たときであった。
「あれっ、登っちゃうの?」
確かに、直角にそびえ立っているのでロッククライミングには最適な形なのかも知れないが……。なにもこれに登らなくとも……。
現代の水墨画は、深山幽谷とそこに遊ぶ仙人ではなく、深山幽谷とそこによじ登る白人青年を描くことになるのだろうか。
いや、とにかく、陽朔、面白いところです。