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<広西壮族自治区・桂林>
山の形が何とも言えない。細長く、天辺が例外なく丸くなっている。大きくはない。暖かいホンワカとした形だ。よそでは余り見ることはない形だけに、奇山奇峰と言われるのもうなずける。それが、無数に聳えている。
桂林の人々はその奇山奇峰に囲まれて暮らしている。朝にはお年寄りが川辺で太極拳をしている。その背にあるのは朝日を受けシルエットになった奇岩奇峰。昼には農民が水牛に鋤を引かせて水田を耕している。その水田を取り囲んでいるのは奇山奇峰。夕暮れには子どもたちが漓江で泳いでいる。夕陽に赤く染まった川面に影を落としているのも奇岩奇峰。
さて、このように桂林の至る所から眺められる奇山奇峰だが、その味わいの深さは、何と言っても、漓江下りに尽きる。私も十回以上漓江下りの船に乗っているが、何度乗っても初めてのように驚く。何と不思議な風景なのだろう、と。
船は漓江の流れに乗って下る。岩と岩の間を縫うように進む。前後左右に奇岩奇峰が群れとなって現れる。進むに従い、遠近の山々の重なりが微妙に変化し続ける。やがて視界は開け、南中国の湿った空気のなか、奇岩奇峰の群れは、近くは濃く遠くは薄く神韻を帯びた階調の美を描き出す。風景は色を失い、無色の階調だけの世界になる。白黒写真が写し出す風景が、実際にはこの世にない風景であるように、階調だけの風景などはあり得ないはずなのに……。あり得ないはずなのに私たちは、船が進むに従い、ずんずん濃淡の階調だけの風景のなかに入っていく。その非現実感。美しさに周りの人々が声を上げる。船の上は現実。周りの風景は非現実。現実が現実のまま非現実に入ってゆく。そんな不思議な感覚に酔いしれて過ごす四時間。漓江下りの醍醐味である。
(中日新聞・東京新聞の2002年9月29日日曜版に掲載)
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