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<四川省・ロウ(門の中に良)中>
これほど美しい街並みを見たのは初めてであった。
明・清時代の古い民家というのは中国の各地に残っている。私も随分見てきた。ただ、それは普通、ほんの一区画だけに残っているというケースがほとんどである。現代化の波の中で、なぜかそこだけが洗い流されることを免れた、とでもいうように。しかし、ロウ中の場合はチョット違う。市は旧市街区と新市街区からなるが、旧市街区の方は街全体が明・清時代の姿そのままなのである。波など知らぬと言うかのように。
面積は一.五平方キロ、通りの数にして東西・南北に九十本、住む人の数は四万人。
古いのは街の姿ばかりではない。竹細工の籠を作っている店、漬け物用の陶器の壺を大小何十と並べている店、墓碑を刻んでいる石工……。人々が昔のまま静かに暮らしている。
「ロウ(門の中に良)」は嘉陵江の古称だと言う。秦嶺山脈に源を発し重慶で長江に注ぐ。嘉陵江はここで大きく湾曲する。その湾曲する嘉陵江に抱きかかえられている街が?中。河を下れば重慶(巴)へ。北へ向かえば、漢中を経て長安・中原へ。漢中から漢水を下れば武漢へ繋がる。水運陸運の要衝であり、兵家必争の地でもあった。三国時代、かの張飛が曹操の攻撃に備えつつ最後の七年間を過ごした地でもある。
木造の平屋の連なる狭い道を気の向くままに徘徊する。どの家の戸も窓も軒も茶色。どの家の屋根の瓦もくすんだ黒。その茶色とくすんだ黒がどこまでも続く。歩くうちに楼閣が見えてきた。三層。楼閣の壁も茶色、屋根はくすんだ黒。近づくと華光楼と額が掛かっている。登ると、南に嘉陵江。手が届きそうなところを流れている。北を見やると雨に洗われ時に磨かれた瓦の波がどこまでも続いている。しばし呆然とする。きっと、古い街並に酔ったのだろう。
(中日新聞・東京新聞の2003年3月26日日曜版に掲載)
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