旅チャイナ(トップ)|チベット青蔵鉄道|チベット入域許可書|カイラス倶楽部| <甘粛省・ラブロン寺> 何とも不思議な光景である。まるで、<異界>に迷い込んでしまったかのようだ。 人々が群をなしてお堂の周りを廻っている。何周も何周も。冬の冷たい空気のなか、厳粛さが漂う。ボテッとしたチベットの民族服は汚れでテカテカ光っている。顔は紫色に日焼けし、髪は荒縄で編んだかのようにボサボサである。ブツブツブツブツ。歩きながら、一心に何かを唱えている。 呪文のように。うまくは聞き取れないが「オム・マニ・ベメ・フム」と言っているのだそうだ。観音菩薩を讃える祈り。お堂の正面の除く三方は回廊になっていて、合わせて百五十個ほどのマニ車が等間隔に並べられている。人々は、そのマニ車のひとつひとつを手で回しながら巡る。真摯な祈り、濃密な空気。彼らの心の中にあるものは一体何なのだろう?
ここは、甘粛省・ラブロン寺。チベット仏教の聖地のひとつである。毎日、甘粛省内のみならず青海、四川、内蒙古からも巡礼の人々の群が押し寄せてくる。一休み中の六十過ぎと思われる男の巡礼に声を掛けた。
薄暗い回廊。柱は赤、マニ車は金色。そこをうごめくように廻る人々の群。「オム・マニ・ベメ・フム」「オム・マニ・ベメ・フム」。輪廻転生の信仰が、いまなお、深く深く人々の心に生きている。 (中日新聞・東京新聞の2001年2月25日日曜版に掲載) |
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