旅チャイナ(トップ)|チベット青蔵鉄道|チベット入域許可書|カイラス倶楽部| <雲南省・昆明> 雲南という名前が良い。雲の南。いかにも遠そうだ。実際、北京からは飛行機で三時間かかる。ミャンマー、ラオス、ベトナムと国境を接する辺塞の地。
省都は昆明。その昆明の南西十五キロにひとつの湖がある。○池という。その西岸にそびえるのが西山。遠くから望む姿は優美な曲線を描き、「睡美人」と呼ばれる。ところがその優美な呼び名とは裏腹に、実際に行ってみると断崖絶壁。その断崖絶壁をくり抜いて石の道、石の階段が作ってある。驚くことに、たったひとりの道士の手により穿たれたのだという。清の時代、鑿と金槌だけで一削一削、十四年。岩を穿つために生まれてきたような……。道教の祠を作るという宗教的な目的意識はあったのだろうが、それにしても……。そんなことを考えながら、人とすれ違うのがやっとなほどの狭い石の道、石の階段を辿って登り詰めると門がある。門の上には龍門と書かれている。中国では鯉が急流を登り切れば龍になるという。龍門とはその境。 眼を転じ、のぞき込むように真下を見ると、これもまた凄い。湖面がキラキラと春の光を映している。湖面までの距離は四百メートルほどだろうか。自分が、垂直に切り立った断崖にポツンと取り付いていることに改めて思い至る。実際は違うのだが、雲のなかから下界を見ているような、そんな超然とした気分になる。 十四年間岩を削っていた人間も世離れしているし、その石段を登って至る龍門からの眺望も世離れしている。 雲南は、仙人になるための修行の場所によさそうなところだ。 (中日新聞・東京新聞の2002年5月26日日曜版に掲載)
|
|