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<新彊ウイグル自治区・砂漠のオアシス>
それぞれの旅に一枚か二枚か、忘れられない写真があるものだ。これもそうだ。車で新彊ウイグル自治区をコルラ、クチャ、アクス、カシュガルと走った時の一枚。
ポプラの並木のしたのウイグルの少女。おそらくは、彼女が昼寝から覚めたばかりの時だったのだろう。
中国最大の砂漠はタクラマカン砂漠。その北縁に沿って一本の細い細い道が続いている。シルクロードの天山南路である。東は西安に繋がり、西はローマに至る。走っても走っても砂礫の原が続く。変わらぬ風景にいつしかうたた寝をしてしまう。目が覚めて、「ああ寝てしまったな」と外を見ても、風景は少しも変わっていない。とにかく広い。タクラマカンとはウイグル語で「入ると出られない」の意なのだそうだ。生命の生存を許さぬ荒漠たる世界である。
そんな大砂漠にポツンポツンとオアシスがある。
「村落が近づいてきたな」と分かる。道の両側にポプラの並木が姿を現すからである。やがて樹木が増え、集落が現れる。そこには水の流れがあり井戸があり人々が暮らしている。そこを通り過ぎるとポプラの並木は次第にまばらになり、やがてまた砂漠に囲まれただけの道に戻る。何時間か走るとポプラの並木が見えてくる。「オアシスだ」。集落がある。水の流れがあり人々が暮らしている。そして、また砂漠になる。これをずっと繰り返す。それが、新彊の車の旅である。
「そう、これがオアシスというものなのだ」。その旅のひとつの収穫であった。もちろん、オアシスというのは知っていた。知ってはいたが、荒漠たる砂漠のなかを四泊五日走り続ける。そこに、ポツンポツンと現れる緑の点。水があれば村落がある。村落があれば並木がある。その並木のしたに人々の暮らしがある。それだけのことだが、すごく心に染みた。感動したと言ってもいい。
この辺りのポプラは葉の裏が白い。その名も裏じろポプラ。風が吹くと、葉の表がキラキラと光り、白い葉裏が涼しげに揺れる。その葉陰で人々が憩う。午後のひととき。ウイグルの民族衣装の女たちが水汲みにやってくる。子供たちが水遊びに興ずる。葉が擦れる音がして、笑い声が聞こえる。灼熱の砂漠を旅してきた者には殆ど奇跡的な光景に見える。それがオアシス。
ああ、砂漠の民はこうして生きているのか! シルクロードを行く隊商はこれを繋いで旅をしたのか! これを巡って漢と匈奴の戦いがあり、オアシス国家同士の権益を巡る争いがあり、栄枯があり盛衰があったのか!
そんなオアシスのひとつで車を停めた。並木が余りに美しかったから。何枚かの写真を撮った。フト気が付くと数人の子どもたちが私を見ている。ウイグルの子だ。足下にはゴザが敷いてある。「木陰で昼寝をしていたんだ」。カメラを向けると皆同時に微笑んだ。ああ、良い子たちだ。その時、風がそよいだ。葉が鳴った。ああ、オアシスだ。車に乗り込もうとすると、皆一斉に手を振ってくれた。この子たちは、眼鏡をしてカメラを首から掛けた旅人のことを覚えていてくれるだろうか。そう思いながら私も手を振った。
(北京トコトコの2002年10月号に掲載)
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