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<内蒙古自治区・満州里>
冬になると「どこでもいいから、おもいきり寒いところへ行ってみたいな」と思う。こう思うのは私だけなのだろうか?
かつて東京でJTBのルックの仕事をしているときに「極めるシリーズ」というのを企画したことがある。上海に行って三十種類の点心を食べるのが「点心を極める」。北京で三十種類の麺を食べるのが「麺を極める」。上海〜ウルムチ間四千キロを七十五時間の列車に乗るのが「列車を極める」。かなり売れた。そのなかで、私自身、一番傑作だと思っているのは「寒さを極める」。ハルピンからさらに夜行列車に乗り北へ向かう。黒河という町に行く。町の北を流れるのはアムール河(黒龍江)。中国第三の大河である。河を越えるとロシア。その大河が冬になるとコチコチに氷る。その氷った河をバスでわたりロシアへ行く。それだけのことだ。特に見るべき何かがあるわけではない。あるのは、凍てついた大地と氷った大河と寒さだけ。何もないがとにかく寒い。昼間でもマイナス三十度になる。どうです、これくらい寒ければご満足いただけるでしょう。そういうツアーであった。
しかし、シリーズ中「寒さを極める」だけはほとんど売れなかった。そこで、思った。 冬になると、寒いところに行ってみたいな、と思うのは私だけなのだろうか、と。
この一月、満州里へ行ってきた。列車は茫々たる雪原のなかを走る。窓は二重になってはいるが、それでも内側のガラスや窓枠にも氷がビッシリ張り付いている。張り付いてい るばかりか、窓枠などは氷が盛り上がっている。
ハイラルまでは北京から飛行機がある。そこから満州里までは列車で二百キロ。
満州里は終点。駅の構外に降り立つと夜。町はしんしんとした寒さの中で静まりかえっていた。マイナス三十二度。顔の皮膚がピリピリと痛い。ふと、見上げると空は満天の星。その星も凍って見えた。「ひとつ山越しゃ、他国の星が……」。思わず知らずこんな歌を口ずさんでいる。東海林太郎の歌の舞台は確か綏芬河であるのだが、満州里も「国境の町」であることに変わりはない。そう。おそらく、寒いだけではダメなのだろう。寒さを楽しむためには「最果て」というイメージが要るのだろう。その点、国境はいいものだ。黒河は河の国境だが、満州里は陸の国境。陸の国境には独特の旅情が漂う。国境には中ロそれぞれの国境ゲートが設けられおり、その中間には国界を示す花崗岩の標石が立てられている(一般に外国人の見学は禁止だが)。
高台からは、ロシア側の町・ザバイカルスクが遠望できる。そこはシベリア鉄道のロシア領最初の駅。線路は延々とモスクワまで繋がっている。
満鉄の時代にも、もちろん、国境であった。寒さと緊張感でピリピリとした町だったのであろうか。当時の満鉄の社宅の家並みも、日本人小学校だった建物もそのままに残っている。「この極寒の中を通学したんだ」。子どもたちの手先足先の寒さ思うと悲しい。
それにしても、満州里は冬の旅にはピッタリの町だ。地名もよい。国境もある。遠くへ来たな、という思いがする。しかも、十分に寒い。
(北京トコトコの2002年3月号に掲載)
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