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<吉林省・吉林>
大河が街をS字型に流れる。それが街のたたずまいを決めている。周りを小高い丘に囲まれ、盆地のなかでしっとりと息づいている。河は松花江。中国と北朝鮮の国境である長白山に源を発っする。
冬は、もちろん、寒い。昼間でもマイナス二十五度。その寒さの中にも人々の暮らしがある。野外の市場で魚や肉がコチンコチンになって売られていた。注文に応じ豚肉をナタのような包丁で押し切る。秤に載せると、カチンと音がした。石焼き芋を売っている。小雪が降り続く。売り子の肩にも雪は降り、焼かれた芋にも雪は降る。「こんなに寒くても石焼き芋を売ったり買ったりしなければならないのか」。こんな想いが脳裏をよぎる。
一方、うまくできたもので、寒さならではの楽しみもある。松花江の北岸に植えられた柳の枝に樹氷の花が咲く。それはそれは素晴らしい。一枝一枝が乳白色の氷細工のようになる。それが集まって氷細工の木になり、それが一列に並んで氷細工の並木になる。
寒ければ樹氷になるかというと、そうでもないらしい。上流にダムがあり、松花江は凍らない。その水がマイナス三十度の朝の冷気に触れ蒸気になる。その蒸気が氷りながら、ゆるい南からの風に流されて木に付着する。幾つもの条件が満たされなければ樹氷にはならない。
この季節、毎朝多くの市民が河縁に繰り出す。どの顔も頬が赤い、そして吐く息は驚くほど白い。「今朝は風の向きが悪くて……本当はこんなもんじゃないんですが」。案内してくれた地元の人がこういう。それでも私の目には十分に美しい、幻想的ですらある。「六十点の出来」、と言いながらも地元の人の顔は輝いているし誇らしげである。
樹氷は、寒さに耐える吉林の人々への寒さからの贈り物。そんなところか。
(中日新聞・東京新聞の2003年2月9日日曜版に掲載)
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