旅チャイナ(トップ)|ホテル大全|レストラン大全|ぬいぐるみ屋|恋恋杭州号| <河南省・開封> 開封は中原の古都。十キロ北を黄河が流れる。最も栄えたのは北宋の時代、人口は百万をこえていたと言う。 当時の街の賑わいを活写した書物が残されている。『東京夢華録』。そう、開封は当時東京と呼ばれていた。 女真族に攻められた宋王朝が開封を棄て杭州に逃れたあと、孟元老という男が旧都の繁栄を懐かしみ書き綴ったものだ。まったく文学意識などなく、自分の記憶にある街巷、市、酒楼、遊郭やそこで供された食べ物を、これでもかこれでもかと羅列してゆく。まるで機関銃を打ち続けるように。それだけに一種独特の臨場感がある。 その『東京夢華録』をもとに宋代の街が再現されている。「宋代御街」。百五十メートルほどの道に左右二百余りの店が並ぶ。歩くとなかなか楽しい。なるほど、書のなかの喧噪が彷彿としてくる。 道の北の端にひときわ立派な楼閣がある。現地の人が言う。「当時屈指の酒楼といわれた『樊楼』です。そのままの姿です」。九百年の長い夢……。窓から管や弦の音、嬌声が聞こえてきそうだ。
しかし、続く一言で夢から覚めた。 黄河の洪水だ。度重なる氾濫は、そこに何があろうが、すべてのものを確実に地下に埋めていった。酒楼も、賑わいも、嬌声も。五メートル掘ると明の街が出てくる。さらに三メートル掘ると北宋の街が。もっと掘れば……。歴史が層になって積もっている。『東京夢華録』が描く街の八メートル上に立っているという感覚は何とも奇妙なものだ。だが、中国を知るということは、そういう奇妙さに慣れることなのかも知れない。そんなことを思いながら改めて「樊楼」を見上げた。 (中日新聞・東京新聞の2002年3月3日日曜版に掲載)
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